来 歴


問わねばならない


樹木もまた
古い果実を今年の枝へつけることができる
暗い野には夜明けということがあり
重い曇天がすめば空は再び青い晴れになる
魚には魚の千年一日の水
雨には雨の下降の法則がある
だがこれは何なのだろう
人間だけに同じ明日がないとは
はじめに身体が温まり心が熱く燃え
次に年老いて火の傍に坐り
水が冷たくなるときに一度だけ死んで
もう帰らない
そんな一度限りの今日が灰に過ぎないとは
またこれば何なのだろう
私を追いこして去る誰かの口笛でもなく
私の後について階段を下りる私の影ですらなく
かけがえのない私の身体が
風に四散する燃えがらとしか呼ばれないのは
かつて私は黄金の女
私の歩く道には日の光が輝き
私の歌は天の下に満ちていた
私は背のびし
それでも天は私よりも上にあつたから
私は天に向かつてほしいままにふるまつた
そしてこれは何なのだろう
その何にもまして慕わしい天がこわれかけているのは
死んでからの天に高く
ポプラの緑がそよいだといつて何だろう
優しい形ともかぐわしい匂いとも縁遠く
不器用に足を曲げて
物も言わず何も見ず
凍えて何億年くらさねばならない穴の中では
花が咲くということは何なのだろう
昼は真上の空
夜は見えない世界に立ちふさがる巨人
その遠すぎる耳に向かつて問い続けよう私は
地上では腐るじゃがいもの花について
灰を踏んで歩く火傷の足について
風に破れる怒りや砂を噛む悔いについて
それを今どうすればいいかについて

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